我が命の恩人・マーバリー軍曹

パイル二等兵

2011年04月01日 16:48

1970年、私は第4師団所属の新兵として
ベトナム中央高原の小さな陣地(通称:ネズミの頭)にいた・・・

朝は陣地の穴掘り、昼は汚物の処理、夜は歩哨・・・
17才の若僧などベトナムでは奴隷・・・いや奴隷以下の存在でしかなかった。

幼い頃両親に捨てられ孤児院で育った私に、兵役免除の手立てなどあるはずも無い・・・
今思えば両親に捨てられた時点で、私はこの地獄に来ることが決まっていたのだ。


1970年冬、標高800mに位置するこの陣地の夜は10度以下に冷え込む。

それを知っていれば、
支給された防寒用のM65フィールドジャケットを質に入れることも無かっただろう。

毎日ファティーグ(作業服)1枚でガタガタ震えながら歩哨に立つ私を見かねたのか、
ある日、分隊長のマーバリー軍曹が近づいてきて無造作に何かを投げ渡した・・・


それは旧式の防寒着、M51フィールドジャケットだった。
所属する第4師団では無く第3軍のパッチ(徽章)、しかもフルカラーの物が付いていたので、
最近の物ではないとすぐに判断できた。

「貸してやる、大事に着ろよ。入隊したての頃の思い出が染み込んだ記念品なんだからな。」

私は何度もお礼を述べ、ジャケットを羽織った。少し大きいが、申し分の無い暖かさだ。

軍曹はジャケットを着た私をボンヤリと眺めて、
「そいつを着ていた頃は・・・」と昔話を聞かせてくれた。

最初の所属先が第3軍だったこと、
朝鮮戦争帰りの上官に死ぬ程しごかれたこと、
結婚直前で逃げられた女性(ベトナム人)がいたこと、
目の前で砲弾が炸裂し大怪我したこと、その炸裂で親友が戦死したこと・・・

ベトナムへ来て初めて人間扱いされた瞬間だった。

この出来事が無ければ、私は敵にやられる前に
ベトナムと言う地獄に堪えきれず自ら命を絶っていたかもしれない・・・

マーバリー軍曹は命の恩人・・・私は今でもそう思っている。


それから2ヶ月後のことだった。
軍曹が北ベトナム軍のアンブッシュ(待ち伏せ)で命を落としたのは・・・


1971年秋、私は無事兵役を終え帰国した。

バーへ繰り出す他の帰還兵を横目に
私は師団司令部へと向かい、マーバリー軍曹の遺族の居場所を尋ねた。

勿論M51を遺族へ返す為だ。


一時間後、軍曹の遺族についての報告を受けた・・・・・・「遺族無し」と。

軍曹も孤児院育ちだったのだ。
私を気に掛けてくれたのは、軍曹自身が同じ境遇で育ったからだと初めて知った。

私は軍曹のM51を一生大事にする決意をし、師団司令部を後にした・・・


あれから30年、私は18歳の息子を持つ父親となっていた。

その息子が高校卒業と同時に海兵隊へ志願すると言い出した。
当然反対したが、息子の決意と愛国心は決して揺らぐことは無かった・・・

入隊前日、私は軍曹のM51を息子に手渡した。

我が命の恩人・マーバリー軍曹が、我が息子・パイルの命も守ってくれる事を願って・・・


   ~ Fin




※1970年のベトナム中央高原に第4師団がいたかどうかは不明です
※ベトナム中央高原の小さな陣地、通称「ネズミの頭」は架空です
※ベトナム中央高原の夜が10度以下になるかどうかは不明です
※新兵全員にM65フィールドジャケットが支給されたかどうか不明です
※支給品を勝手に質に入れると、恐らく罰則があります
※「MURBERY」を「マーバリー」と読むのかどうか不明です
※M51・M65フィールドジャケットは大して暖かくないです
※時間的な矛盾点は無視して下さい
※当然ですがフィクションです



衣替えでタンスの奥に仕舞い込む前にご紹介を・・・

M51フィールドジャケット(初期型)

     制式名:COAT, MENS, COTTON,WR, SATEEN,
          WATER REPELLENT TREATED, 9 OZ, OLIVE GREEN 107,
     製造国:アメリカ合衆国
     製造年:1950年代(推定)
     サイズ:REGULAR - SMALL(推定)
     カラー:OD
     材質:コットン

1951年に制式採用された防寒用ジャケットです。
(朝鮮戦争モノともベトナム戦争モノとも言えるのかな?)

中にはインナー、襟にはフードが付けられるようになっています。

3枚あるタグが全て外されているので断定できませんが、
造りから推測すると1950年代の初期型と思われます。

後のM65フィールドジャケットとの大きな相違点は、やはり襟の形ですね。
腰のポケットにウールの内張り(手を温める為?)があるのもM51の特徴です。

一般的な認知度も高く人気のあるM65に比べ、非常に影の薄い存在・・・
その分安く入手出来ると言うメリットもあります。
ちなみにこちらのジャケットは古着屋で1400円の品・・・悲しいくらい安い



ジャケットに付いていた当時の物と思われるフルカラーのパッチ類、
「MURBERY」のネーム・U.S.ARMY章・第3軍章の3点です。

第3軍と言えばWWⅡでパットン将軍が率いたことで有名ですね

ちなみに第3軍は朝鮮戦争・ベトナム戦争には参加してません。


それでは今回はこのへんで

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